歌舞伎の舞台名所を歩く |
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『義経千本桜』 | |
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『義経千本桜』(よしつねせんぽんざくら)の二幕目は「伏見稲荷鳥居前の場」です。 |
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本舞台、向う一面の浅黄幕、この前へ上手寄りに朱塗りの大鳥居、これより下手まで一面朱塗りの玉垣、所々に御影(みかげ)石の春日形の石燈籠、よき所に梅の立木、梅の吊り枝、すべて伏見稲荷の森、鳥居前の体よろしく。どんちゃんにて幕あく。 吹く風に連れて聞こゆる鬨の声、物凄まじき景色かな。昨日は北闕(ほくけつ)の守護、今日は都を落人の、身となり給う九郎義経、数多の武士も散りじりになり、亀井片岡伊勢駿河、主従五人大和路へ、夜深かに急ぐ旅の空、後ふり返れば堀川の、御所も一時の雲煙、浮き世は夢の伏見道、稲荷の宮居に差しかゝれば、四方に響きし貝鐘太鼓。 (『名作歌舞伎全集』第2巻、255頁) |
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前半は省略しますが、静は義経に追ってきて、お伴を願います。義経はそうすることを許しません。 |
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義経 これこそ年来義経が、望みをかけし初音の鼓、このたび法皇より下し賜わり、我が手に入りながら、一手(ひとて)も打つことなり難きは、兄頼朝を討てとある、院宣のこの鼓、打たねば違勅(いちょく)の科のがれず、打てば正(まさ)しく鎌倉殿に敵対も同然、二つの是非を分けかねたるこの鼓、身をも離さず持ったれど、また逢うまでの筐(かたみ)とも、思うて朝夕慰め給うべし。 (ト鼓を渡す) |
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そして忠信に命じます。 |
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義経 汝は静を同道して都に止まり、万事よろしく計らうべし。 忠信 静様の儀は御案じなく、わが君様にはご機嫌よろしく。 義経静に向かわせ給い、 義経 コリャ静、わが便りをあい待たれよ。 静 スリャ、どうあっても、おつれなされては下さりませぬか。ハアゝ。 今がまことの別れかと、立ち寄る静を武蔵坊、立ち隔つれば忠信も、わが君に暇乞い、互いに無事をうなずき合い、嘆く静を押退け退け、心強くも主従は、山崎越えに尼ケ崎、 皆々 さらば、 忠信 おさらば、 大物さして出で給う。 |
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幕切れは、忠信が狐六法で花道を引っ込む見せ場です。 |
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伏見稲荷は、 JR「稲荷」駅で下車して改札を出ると、すぐ通りの前に大きな鳥居が、手前にお稲荷様の眷属(けんぞく)である狐が見えます。 立派な楼門の左右にも狐が。 ここには「隋身(ずいしん・ずいじん)像」、左は左大臣・右は右大臣と言うのだそうです。 「阿吽」の形をしているのは、仁王門の像と共通しています。 境内の案内図を見ます。 楼門を通るとすぐ外拝殿で、右から振り返ります。 外拝殿を見て、 本殿に向かいます。 ここにも狐が、 そして絵馬は狐の顔の形をしています。 本殿の右には歌碑があります。作者の自筆を刻んだのでしょうか、いいですね、手書きの文字です。 なぜここに「稲穂舞」が詠まれているか、『京都歳時記 夏』(小学館, 1986)25頁)を見て分かります。 伏見稲荷の田植えは毎年6月10日に行われる、豊作を祈願する神事なのです。写真が一葉添えられていて、 左上に見える、平安装束を着た四人の女性は「神楽女」で「御田舞」を舞い、茜襷(あかねだすき)の早乙女が田植えを行う、と書かれています。 この神社は千本鳥居でも有名です。大勢の人が向かっていますが、ここにも鳥居前の左右に狐が。 鳥居を通りぬけて、左の階段を上ります。 千本鳥居に入ります。 途中で鳥居は二つに分かれていますが、みなさん右に進みます。左は帰る人が通っています。 奥社に着て、案内板をみると、更に奥があるのが分かりますが、今回はここまでにして、ぐるりと回ります。 石垣の上に鳥居があり、その下にも小さな鳥居がいくつも置かれています。 祀られているのは稲荷大神とありますが、詳しいことはわかりません。 右手には「おもかる石」というのがあり、 説明を読んでみます。 成程。石を持ちあげたい人が並んでいますので、見るだけにします。 ぐるっと回って、千本鳥居を戻り、見てないところを見て引き返します。 昔一度来た時は、ほとんど誰も居ませんでしたが、外国人観光客の人気観光スポット第一位に連続して選ばれているとかで、外国からの人たちの姿もとても多く見かけました。 第一鳥居を出て、辺りを少し見てみようと思い右の通りを行くと、なにやら好い匂いがしてきます。 名所を見た後で、近くで甘いものをいただいて何か飲みながら一休みする ― 幸せなひと時です。 |
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『義経千本桜』の歌舞伎としての初演は延享4(1747)年、江戸・中村座。 国立劇場では昭和43(1968)年3月に初演して以来、本公演・歌舞伎鑑賞教室などで何度か舞台にかかりましたし、歌舞伎座でも先代の市川猿之助が7月に奮闘公演で、通し狂言として上演した熱い舞台を思い出します。 「鳥居前」は単独でも上演されますので、また近々観ることができそうで、楽しみにしていたいと思います。 |
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(2018(平成30)年7月17日) | |