歌舞伎の舞台名所を歩く

  いがみの権太の墓
『鮨屋』


 (1)

三大名作の一つ『義経千本桜』の三段目、通称「鮨屋」には、「木の実」に続いていがみの権太が登場します。

権太は母親を騙して貰った金を、父親が帰ってくるのを見て、鮨桶に隠します。討死した小金吾の首を持ち帰った鮨屋の主・弥左衛門も、その首を鮨桶に隠します。

梶原が来るとの知らせに、権太は間違って首の入った桶を持って花道の七三で大見えを切り、走り去ります。大きな見せ場です。

そして、幕切れ…

権太 おれの性根が悪いゆえ、御相談の相手もなく、前髪の首を惣髪にして渡そうとは、料簡違(ちげ)えのあぶねえ仕事だァ。梶原ほどの侍が、弥助というて青二才の、下男に仕立てゝあることを、知らずに討手に来ましょうか。それと言わぬはあっちも合点、維盛さま御夫婦の路金にせんと盗んだ金、重いを証拠に取り違え、持って帰って鮨桶を、あけて見たれば中には首、はっと思えどコレ幸い、前髪剃って突きつけたは、とっさん、はっぱりおめえの仕込みの首だ。

弥左 ムウ、そのまた性根で、御台さまを、なぜ鎌倉へ渡しおったぞ。

権太 そのお二人と見えたのは、

弥左 そのお二人と見えたのは、

権太 この権太郎が、女房、伜だ。

弥左 エゝゝゝ、シテシテ、お二人様は何所にござる。

権太 そのお二人に逢わせましょう。おっかさん、この莨入れの段口に笛があるから吹いて下せえ。

(『名作歌舞伎全集』第2巻、308頁)


権太の手負いになってからの見せ場が続きます。


(2)

ちょっと驚きましたが、「いがみの権太の墓」があるのです。



近鉄吉野線「下市口」駅を下ります。



駅の案内板を見ると、「平維盛の旧跡」とある弥助という鮨屋までは0.8キロと近いですが、権太の墓までは3キロとあるので、タクシーで2か所回ることにします。



橋を渡って一本道を行くと、左に入る通りがあります。



ここを入ると、左手に石垣に囲まれて、



いがみの権太の墓があります(所在地は下市町阿知賀)。「墓があるこの地は彼が営む茶店があったとされています」と下市町の観光パンフレットにあります。



マスコット・キャラクター「ごんたくん」とは、歌舞伎の役割を考えるとちょっと意外な感じもしますが、地域の人たちに親しまれているようです。





後ろからも囲いを見てみます。

   



 
タクシーは待ってもらっていて、「弥助」鮨へお願いします。



入った応接間のような部屋に、「いがみの権太」の絵が飾られています。



権太が持って行く鮨桶もショー・ウィンドーのようなところに見えます。



この店のパンフレットには、「義経千本桜鮨屋の段 釣瓶鮨屋 つるべすし 弥助」とありますが、鮨を入れた桶の形が、井戸水をくみ上げる釣瓶に似ていることから名づけられたとのこと。


下市郵便局へ行くと、いがみの権太のスタンプを押してくれます。



  
   
なお『鮨屋』の舞台については「つるべすし 弥助」をご覧ください。



お読みいただきありがとうございました。

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(2018(平成30)年8月1日)
 
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