歌舞伎の舞台名所を歩く

  二重橋
『慶安太平記』


 (1)

河竹黙阿弥作『慶安太平記』、通称「丸橋忠弥」、第一幕は「城外堀端の場」。

幕府転覆を図る由比正雪の一味、槍の名人丸橋忠弥は、酔った振りをして花道を出てきて、江戸城の堀の深さを測ろうとします。

忠弥 又吠えやアがるか。

ト堀の内に石を打ち込み水音を聞く思入れ。犬は下手へはいる。この時冠りし笠ずるずると落ち、忠弥懐から煙管(きせる)を出し間数(けんすう)を計る思入れ。合方きっぱりとなり、上手より伊豆守上下大小足駄白張の傘をさし、老中のこしらえにて出て来リ、この体を見てそっと忠弥の後へ行き持ちたる傘をさしかける。忠弥体へ雨のかからぬゆえ、心附き後を見返りびっくりなし、煙管を懐に入れて、

むむ。(と笑いかける)

伊豆 はは、
両人 むむ、はゝゝゝゝ。(ト両人にったり笑い、忠弥生酔いの思入れにて)
忠弥 ええい。(トわざとよろよろと下手へ行く)

忠弥に何をしていたのかと尋ねる伊豆守、忠弥は犬があんまり吠えるので石をぶつけて追い払っておりましたとその場を繕います。

そして忠弥が酔ったふりのまま、花道に入るのを見送った伊豆守はいぶかしく思います。

伊豆 今殿中より下城なす乗物越しに見たる所、姿は下賤に扮(やす)せども正しく武家とおぼしきもの、酒興に乗じ吠え付きし犬に礫を打つ体にて、この水中へ石を打ち込み、その水音にて浅深(せんしん)の測量なすは心得ず、家来を遠ざけ只一人(にん)近寄りて窺いしに、一癖ありげな物腰格好、…
  (『名作歌舞伎全集』第23巻、191-92頁)


(2)

二重橋へは地下鉄・千代田線「二重橋前」で下車、皇居前広場に入ると正面に見え、5分程で着きます。



舞台の背景はこの景色とほぼ同じで、現在の場所がはっきりわかるというのも珍しいと思います。


   
 
(3)

『慶安太平記』の初演は明治3(1870)年、東京・守田座。

平成4(1992)年2月に、市川團十郎(丸橋忠弥)・尾上菊五郎(松平伊豆守)の主演で歌舞伎座の舞台にかかりました。初めて観る舞台、いつもワクワクしますが、團菊が素晴らしくて、もう一度幕見で観ました。


 歌舞伎座 鳥居派の絵看板(部分)


最近では平成27(2015)年、「松竹創業百二十周年団菊祭大歌舞伎」と銘打った5月公演で、尾上松緑(丸橋忠弥)と尾上菊之助(松平伊豆守)の若い二人が好演しました。
  
   

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(2018(平成30)年6月25日)
 
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