歌舞伎の舞台名所を歩く

  小栗堂
(藤沢市・遊行寺)


 (1)

まず小栗判官と照手姫についてです。

『日本架空伝説人名事典』(平凡社, 1996)「小栗判官」の項には、次のように書かれています。

  大蛇と契ったかどで常陸国に流された小栗判官は、相模、武蔵両国の豪族横山氏の一人娘照手が絶世の美女だと聞いて、横山一門の承認もえずにこれと契る。これを知った横山は激怒して人食い馬鬼鹿毛(おにかげ)の餌食にして殺そうとするが失敗し、再び計略を用いて毒殺する。

横山は照手をも淵に沈めようとするが、照手は家従鬼王・鬼次のはからいで牢輿のまま流され、人買の手に渡り諸国を転々とする。

          (中略)

死んだ小栗は餓鬼身(がきしん)として蘇生し、藤沢の上人によって土車に乗せられ人々の慈悲によって熊野へ運ばれて、湯の峰の湯を浴びもとの身に復活する。*

途中、それとは知らずに照手もこの車を引くが、これが機縁となって小栗と再会し横山に復讐する。
 
各地に小栗判官の伝説が残りますが、同書には次のようにもあることから、藤沢の遊行寺に小栗堂があることはごく自然なことと云えます。

…鎌倉公方家と管領家の闘諍に連座して滅んだ常陸の小栗氏の御霊を鎮めるために、常陸国真壁郡小栗の神明社と関係のあった神明巫女が語り出したものが、藤沢の時衆の道場に運ばれて、時衆文芸と成長したものと考えられている。

  *数年前、熊野本宮大社に参拝した帰り、偶然バスの中から「小栗判官蘇生の湯」の文字が見えたので、思わずシャッターを切りました。後で調べると、「湯の峰温泉」でした。

   


(2)

遊行寺へ行きたくなります



JR東海道線「藤沢」駅で下車、歩いても15分ほどですが迷いそうなのでバスに乗り、「藤沢橋」のバス停で降ります。

バス停からは東門が近いのですが、ぐるっと回って、遊行寺橋を渡り総門から入ることにします。

「時宗総本山 遊行寺」、「清浄光寺」とありますが、山号は「藤澤山」。



長い参道が見えます。



ご由緒です。



本堂の手前には大イチョウ。秋には見事な黄を見せるに違いありません。その時期に来てみたいものです。




一遍上人の像が、本堂の右手前に建っています。






案内図を見ると、この右手奥に小栗判官ゆかりの長生院とお墓があるのがわかります。



「車坂」と云う坂を上ると、



長生院小栗堂があります。




このお堂の左が墓所入口で、



奥に進むと、小栗家の系図と説明板、



小栗判官を真ん中にして、左右に5基づつ十勇士のお墓、




隣には照手姫のお墓、



そして照手姫と名付けられたハナモモ、




そして芝居では小栗判官が乗りこなす荒馬・鬼鹿毛(おにかげ)のお墓まであります。




境内には他にもいろいろな供養塔・五輪塔などもありますので、そちらも見て総門への参道を下ります。



  
(3)
 
小栗判官と照手姫の話は脚色されて、いろいろと違ったストーリーが生まれましたが、歌舞伎でも見せ場の多い芝居に仕立てられました。

昭和62(1987)年7月の歌舞伎座、『當世流小栗判官』の外題で先代の市川猿之助が演じましたが、国立劇場でも、何度か上演されています。

平成12(2000)年、第220回歌舞伎公演『小栗判官譚』(おぐりはんがんものがたり)

平成18(2006)年3月、第249回歌舞伎公演『當世流小栗判官』(とうりゅうおぐりはんがん)

平成30(2018)年1月、第307回歌舞伎公演『世界花小栗判官』(せかいのはなおぐりはんがん)



 国立劇場公演ちらし

これは「小栗判官伝説を題材にした歌舞伎作品の決定版『姫競双葉絵草紙』を新たに補綴し、面白い趣向や演出を工夫して」の上演とのことです。

主な出演者は、尾上菊五郎、中村時蔵、尾上松緑、尾上菊之助ほか。菊之助が小栗判官、尾上右近が輝手姫を勤めました。

碁盤の上に後ろ足で立つ曲場乗りなどなど、それぞれの場に見せ場がある初春に相応しい楽しい芝居でした。


(4)

小栗判官の話は画題として好まれ、多くの浮世絵などに描かれて来ましたが、2019年に藤沢市の藤澤浮世絵館で、「小栗判官物語と遊行の縁(えにし)」という展覧会が開催されました。


(藤澤浮世絵館「浮世絵館だより」2019年3月, Vol. 8 より)

同館は展覧会ごとに「浮世絵館だより」を出しておられますが、今回も多くの浮世絵・草双紙・地図などをカラーで入れた充実した内容で、大きく次の三つに分けて、見やすく分かりやすく説明されています。

藤沢と小栗判官 浮世絵の中の姿
江戸の娯楽に広がる 小栗判官物語
小栗判官と遊行寺 今に伝わるその縁



 お読みいただきありがとうございました。

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(2017年10月27日撮影)
 
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