歌舞伎の舞台名所を歩く |
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『関の扉』 | |
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常磐津の舞踊劇『関の扉』(せきのと)、関守関兵衛(実は大伴黒主)と良峯宗貞(後の僧正遍昭)が、雪中に咲く桜を愛でているところへ、小野小町がやってきます。 |
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宗貞 雪降れば冬籠もりせる草も木も、春にしられぬ花ぞ咲きける。……なんと関兵衛、どうも言われぬ景色ではないか。 関兵 さようでござります。この雪を肴に、ぐっと引っかけましたら、イヤモ、たまったものじゃござりませぬ。 小町 もうし、ちと御案内申しましょう。 宗貞 アレ、関の扉に、誰やら案内があるぞや。 関兵 かしこまりました。……案内たア何者だ。見りゃア貴様は女だが、この夕暮に只一人、この関の扉へは、何しに来なすったえ。 小町 アイ、わたしゃ三井寺へ参詣の者、関を通して下さんせいなア。 (『名作歌舞伎全集』第19巻、62頁) |
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この『関の扉』は逢坂の関が舞台です。 三代歌川豊国(国貞)「小倉擬百人一首 前大僧正慈円 大友黒主 小町桜霊」 (『江戸の悪』(青幻社, 2016)109頁より) |
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滋賀県大津市に「逢坂の関址」があります。 京阪電車「大谷」駅で下車します。駅の近くに「村社 蝉丸神社」があるので寄ってから、国道1号線を5分程行くと、「逢坂の関記念公園」に着きます。 逢坂の関の案内板です。 「逢坂の関」については、こう記されています。 |
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逢坂の関の初出は、平安京建都の翌年延暦14年(795)に逢坂の関の前身が廃止されたという『日本記略』の記述です。 その後、逢坂の関は京の都を守る重要な関所である三関(鈴鹿関・不破関・逢坂関)のひとつとして、弘仁元年(810)以降、重要な役割を果たしていましたが、平安後期からは徐々に形骸化されその形を失ってきました。 逢坂の関の位置については現在の関蝉丸神社(上社)から関寺(現在の長安寺のある辺り)の周辺にあったともいわれますが、いまだにその位置は明らかになっていません。 |
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ちなみに『枕草子』に「関は、逢坂」(第106段)と出てきます。 他に、大津絵について書かれた説明もありますが、近くに逢坂の関を詠んだ歌が刻まれた石碑が三つ、 左から順に、 これやこの行くも帰るも別れては知るも知らぬも逢坂の関 蝉丸 名にしおはば逢坂山のさねかづら人に知られでくるよしもがな 三条右大臣 夜をこめて鳥のそらねははかるともよに逢坂の関はゆるさじ 清少納言 「百人一首」に入っているお馴染みの歌が刻まれています。 そして常夜燈と関址の石碑がたっています! ついでに… ここを下って、「逢坂山 弘法大師堂」を過ぎると、今度は「郷社 関蝉丸神社上社」があります。長い階段を上ると、竹でできた簡素な鳥居には「蝉丸」とだけ書かれています。 さらに下ります。「関寺旧址」安養寺を通って少し行くと、京阪電車の線路の向こうに「関蝉丸神社下社」が見えます。蝉丸はこのあたりに庵を構え、小野小町も近くに住んだらしく「小町塚」が境内にあります(ちなみに近くの長安寺には、「小野小町供養塔」が残ります)。 しかし驚きました。本殿には青いシートがかかり、目も当てられない状態なのです。「音曲芸能祖神」を祀り、謡曲史跡保存会の碑がたち、多くの石碑などが残る極めて由緒ある神社のこんな姿を見せられて、暗澹たる思いにかられました。予算がかかるとしても、文化財として、可能な限り本来の姿で後世に残す責任と義務があるのではないでしょうか…。 |
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『関の扉』の初演は天明4(1784)年の江戸・桐座。関兵衛を演じたのは初代中村仲蔵で、「仲蔵振り」として今に残るとのことです。 国立劇場では、『積恋雪関扉』「逢坂山関所の場」として昭和53(1978)年正月に初演されました。2代目尾上松緑(関守関兵衛、実は大伴黒主)、初代尾上辰之助(良峰少将宗貞)、尾上菊五郎(小野小町姫)、7代目尾上梅幸(傾城墨染、実は小町桜の精)の出演でした。 平成3(1991)年 1月に再演され、この時は12代目市川團十郎、坂東玉三郎、9代目澤村宗十郎の出演で、玉三郎は、ふつうそうであるように、小野小町と墨染(実は小町桜の精)を演じました。 ぼくにとっては、大好きな役者たちを観ることをができた、どちらも忘れ難い舞台です。 この作品一つをとっても、歌舞伎の凄さ・奥の深さを感じます。 舞台面と三人の衣装の美しさ、常磐津の名曲、目と耳を楽しませてくれますし、奇抜な筋、古怪な雰囲気…、歌舞伎舞踊の面白さ・歌舞伎美を堪能させてくれてなお余りあります。 3代目歌川豊国(国貞)「木曽六十六驛 大津 逢坂山 黒主」 〔描かれているのは3代目沢村宗十郎〕 (「七代目団十郎と国貞、国芳」展図録(岐阜県立美術館, 平成13年)44頁より) |
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(2018(平成30)年6月19日) | |