歌舞伎の舞台名所を歩く

  回向院
『鼠小紋東君新形』『次郎吉懺悔』


 (1)

鼠小僧次郎吉を主人公にした芝居が二作あります。

二代目河竹新七(黙阿弥)作『鼠小紋東君新形』(ねずみこもん はるのしんがた)、通称「鼠小僧」と、鈴木泉三郎作・村上元三潤色・演出の『次郎吉懺悔』。 

大名屋敷に押し入り、盗んだ金を貧しい人たちにばらまいた義賊、というのが、誰一人知らぬもののいない鼠小僧の像ですが、実話では、天保3(1832)年5月8日に北町奉行の手の者にとらえられ、
取り調べの結果、盗みに入った数が123回、金額については3085両とも1万両ともいわれ、その差がはなはだしい。ただ、確かなことは、貧乏人に金をまいたことは一度もなかったという。
(桜井正信編『歴史散策 東京江戸案内 歌舞伎と落語篇』(八坂書房, 1994)154頁)

とのことで、虚像と実像はつねにかけ離れているものなのでしょう。
 

松雪斎吟光「鼠小僧次郎吉 尾上菊五郎」明治7(1874)年 大判錦絵
(渡邊晃著『江戸の悪 浮世絵に描かれた悪人たち』青幻舎, 2016、30頁)


(2)

回向院はJR両国駅近くにあり、歩いて3分ほどで着きます。





門をくぐり、突き当りの本堂で手を合わせ、左へ行くと、右に鳥居清長の記念碑、その向こうの門の左奥に次郎吉の墓があります。



江戸時代から、墓石を砕いて持っているとツキがまわってくると信じられてきたため、もう削られないように、今では「お前立ち」が置かれていて、これを削ることになっています。




ちなみに境内には、二世中村勘三郎、竹本義太夫、山東京伝・京山などの墓もあります。


   
(3)

『鼠小紋東君新形』の初演は安政4(1857年)江戸市村座。
近年では、1993年 3月、国立劇場で河竹黙阿弥没後百年を記念して上演されました。

*

『次郎吉懺悔』の初演は大正12(1923)年の市村座、六代目尾上菊五郎が次郎吉を演じました。

1995年3月、国立劇場で鼠小僧次郎吉=尾上菊五郎(7代目)、貸本屋直吉実は馬喰町の直吉=市川團十郎(12代目)という配役で上演されていますが、その前は1985年1月の歌舞伎座に遡り、どちらもめったに上演されていません。
 

お読みいただきありがとうございました。

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(2019年11月20日撮影)

 
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