歌舞伎の舞台名所を歩く

  平作地蔵尊
『伊賀越道中双六』


 (1)

『伊賀越道中双六』(いがごえ どうちゅうすごろく)、通称「伊賀越」、「沼津平作内の場」です。

平作は、旅人の十兵衛に荷をかつがせてくれるように頼みます(老人の平作がやっとのことで荷をかつぐところ、客席に降りて、観客の間をぐるっと通って舞台に戻るところは、役者の見せどころですし、客席も沸くところです)。

その縁で泊った十兵衛が寝た後で、平作の娘お米が、傷を負った志津馬のために薬の入った印籠を盗もうしてして見つかります。

重兵 コレ娘御、こなさんは江戸の吉原で全盛の、松葉屋の瀬川どのとは言わなんだか。

お米 ハイ、デモようご存じ。

重兵 
そんなら瀬川どのか。その瀬川殿が夫の為に、ムム。

 心の目算思案を極め。

 なるほど、夫の手疵を直す薬、欲しいは尤も。進ぜたいものなれども、これは人より預かり物。なりゃ、この薬の事は思い切らっしゃれ。……時に親父どの、この娘御よりほかにもう子供はござらぬか。

平作 
ハイ、このお米の上に男の子が一人あったけれど、二つの年に養子にやりましたが、又その親の手を離れ、今は鎌倉のお屋敷方へお出入りの、よい商人(あきんど)になって居るとの噂、それを聞いてとんと思い切りました。

重兵 
そりゃまたなぜに。

平作 
ハテ、一旦人にやったれば捨てたも同然、我が子ながらも義理あるもの、今その伜が身上がよいとて尋ねて往って、箸片し貰うては人間の道が済みませぬ。今が今出会うても赤の他人、子というはハイこの娘一人でござりまする。

重兵
 ムゝ、それも尤も。シテ、その兄貴殿、今はいくつ位じゃな。

平作
 ハイ、こうと丁度今年二十八、鎌倉八幡宮の氏地の生まれ、母の名はとよと、守り袋に書付を入れてやりましたが、その後このお米を産んでかゝも相果て、便りに思うは是一人、その娘が今宵のしだら、面目次第もござりませぬ。

 何心なき話の合紋、一々胸にこたゆる十兵衛、思い合わせば覚えある、さては産みの親父様、血を分けた我が妹が貧苦の有様、(以下略)
(『名作歌舞伎全集』第5巻、309-10頁)

十兵衛は平作の子、お米は妹であることを知ります。そして…


 
(2)

平作地蔵は沼津市にあります。



JR東海道線「沼津」駅・南口を出て、旧国一通りを三島方向へ歩きます。



三園橋の交差点を過ぎて、右の横道に入ると、変わった石が目に入ります。



「玉砥石」とあります。



少し行くと、沼津でよく見る案内があり、ここは東海道一里塚跡とわかります。



何という木でしょうか…





そして少し行くと、右の一角に見えるのが平作地蔵尊です。



入口にこの地蔵尊の由来が、歌舞伎を引いて詳しく書かれています。



中に入ってみます。





「平作茶屋」と読めますが、昔ここにあった茶屋のものでしょうか…。



向こうは、狩野川に架かる黒瀬橋です。



黒瀬歩道橋から見てみます。



大通りに出ると沼津警察署があり、「山王前」のバス停があります。ここでバスに乗ると、7・8分で沼津駅に着きます。


なお『伊賀越道中双六』の初演等、舞台については「千本松原」をご覧ください。



お読みいただきありがとうございました。

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(2018(平成30)年8月8日)
 
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