歌舞伎の舞台名所を歩く |
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『心中天網島』 | |
(大阪市西成区) |
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大阪メトロ「天下茶屋」駅で下車、天神の森天満宮を目指して歩いて行くと、お寺の石碑の文字が目に入ります。 「紙治おさん」はピンときませんでしたが、歌舞伎に関係のある名に違いないので入ってみることにします。 境内に入ると、短い参道の左はすぐ墓地で、いろいろなことが書かれています。 正面が本堂で、右へ行ってみます。 大きな木をぐるっと回ったことになりますが、こちら側も墓地です。 ◆おさんの墓 説明文から、おさんは近松の『天網島』に出る治兵衛の貞節な妻なのがわかります。 ◆猪名川弥右衛門の墓 この隣には『関取千両幟』に登場する力士のお墓が並んでいます。この芝居は未だ見たことがありません。 思いがけなく、歌舞伎に関係のある二人のお墓に出会う幸運に恵まれました。 門の右の大木には板がぶら下がっていて、毛筆でこう書かれています。 桜の木 ソメイヨシノ 桜ばな いのちいっぱい さくからに 生命かけて わが眺めたり 帰って全集を開いてみます。 俗に「紙治」とよばれる『心中天網島』と云えば、「紙商治兵衛と紀の国屋の抱え小春」の二人の名が浮かびますが、「治兵衛の女房もお大役」(戸板康二)なのですね。 |
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小春 何、おさんさんが尼にならしゃんしたとは、私ゃどうしょう、どうしょうぞいな。 治兵 娘さん事、お末諸共今日尼に致し、貞玉、智月と法名をつけ、天下茶屋の尼寺安養寺へ連れ行き、先刻下されし五十両は二人の者の飯料(はんりょう)、則ち寺へ祠堂金を上げ申し候。 皆まで読まず両人は、わっとばかりに声をあげ、 小春 そりゃ聞こえませぬおさんさん。二人の子供に憂き目をさせるも皆私がなした科。おさんさんを呼び戻し、千年も万年も添いとげて下さんせいなァ。 (『名作歌舞伎全集』(創元社, 1969)第1巻、224-25頁) |
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大長寺「小春・治兵衛比翼塚」もご覧ください。 | |
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(2019年5月12日撮影) |
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