歌舞伎の舞台名所を歩く

  鞍馬山 鬼一法眼社
『鬼一法眼三略巻』


 (1)

『鬼一法眼三略巻』(きいちほうげん さんりゃくのまき)の「今出川菊畑の場」 、鬼一は牛若丸に打ち明けます。

鬼一 君は鞍馬の奥深く、東光坊の御許にて成長し給い、毘沙門堂の辺にて、立木を相手に兵法を修行と聞く嬉しさ、我も登山し秘密を残らず伝えんと思いしが、一門の師範と仰がれ、平家の禄(ろく)をはむ鬼一が、源氏へ大事を伝えんは、

 二心とや笑われん。

よしや身のそしりは厭わねど、なにとぞ鬼一という名を包み、伝えんものと肺肝(はいかん)を砕き、宿願ありと娘にも偽り、夜な夜な鞍馬山へ分け入って、勿体なくもこの神霊の御姿を写し、月は木の間の篝(かがり)の炎に形をあやしめ、その頃は君まだ稚髷(ちごわ)のいとけなき御目(おんめ)をくらます。

 鞍馬山。大天狗僧正坊と名乗りかけ、奥義を伝うる山中の、谺(こだま)にひびく小太刀の音、兵法教えさずけしを、実の天狗と思い給いしか。

コレ、この面の僧正坊こそ、誠は鬼一法眼が仮に似せたる形ぞや。

 君、天下をしろしめしての記録にも、

牛若が兵法は、僧正坊という天狗に習いしと書きしるさせ、

 末世末代、鬼一という名をば、

深くも包み隠してたべ。

 初めて明かす物語。

牛若 ありがたしとも忝なしとも、我に対する詞なし、鬼一どの。

 (『名作歌舞伎全集』第3巻、76-77頁)


(2)

鞍馬山に鬼一法眼社があります。




叡山電鉄の乗り、終点「鞍馬」駅で下車します。駅を出ると迎えてくれるのは大きな天狗の顔像。鞍馬寺はすぐです。見どころが多いですが、山門から鬼一法眼と牛若丸に関係のあるところまでの写真をご覧ください。このように縁の社などがあることを思いがけなく知って、嬉しくなります。


















◆鬼一法眼社








◆由岐神社・義経供養塔・川上地蔵堂はこちらをご覧ください。

 
◆鞍馬寺

 





























 向月台






 奥の院参道入口


 「霊宝殿は入館できますが、倒木・参道崩落のため貴船へは行けません」





 















(4)

『鬼一法眼三略巻』の初演は享保17(1732)年、京都・小六座(前年に大坂・竹本座で初演された人形浄瑠璃が歌舞伎化されての上演)。


この芝居を初めて観たのは、昭和44(1969)年10月、国立劇場での初演(第27回歌舞伎公演)でした。

その後何度か再演されていますが、最近では平成24(2012)年12月(第282回歌舞伎公演 )、歌舞伎座でも「菊畑」と「一条大蔵譚」が度々上演されています。


国立劇場公演ポスター
(『歌舞伎ポスター集-国立劇場開場25周年記念-』(日本芸術文化振興会, 1991年刊)より)


   
関連で「鞍馬山 義経供養塔」もご覧ください。

お読みいただきありがとうございました。

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(2018(平成30)年11月13日撮影)
 
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