歌舞伎の舞台名所を歩く

  芝大神宮
『神明恵和合取組』


 (1)

竹柴其水作『神明恵和合取組』(かみのめぐみ わごうのとりくみ)、通称「め組の喧嘩」の二幕目は「神明社内芝居前の場」、力士と鳶の者が再び言い争います。

九龍山 芝はめ組の持場所と、子分子方がいばり散らし、角力や芝居で言いてえざんめい、見るに見かねて買って出た、以前の名前は水引清五郎、今改めて九龍山、ただただあやまっても居られぬわえ。

辰五郎 そりゃアこっちも同じこと、…力自慢の左利き、鉄砲突きに突っかかられちゃア、あとへは引かねえ鳶の者、この神明から愛宕をかけ、天狗と仇名の豆辰が当番あげた上からは、籠目の纏井をこがすとも、この消し口は取らにゃアならねえ。

(『名作歌舞伎全集』第17巻、183頁)


(2)

「神明社」とあるのは「芝神明宮」で、今は「芝大神宮」です。


 大門駅壁の絵

マップです。



都営地下鉄浅草線「大門」で下車、A6番出口から出ます。



するとすぐ前に老舗の蕎麦屋があり、その横の通りに入ります。



最初の角の左に鳥居が見えます。





鳥居の左には石碑





ご由緒です。








階段を上ります。

昔来たときには階段はありませんでした。本殿に行くにはここしかなく、足の不自由な人や車いすの人は参拝したくともできないなァ、エスカレーターがあるところもあるのに、などを思いながら上ります。バリアーフリーが当然の今なら、違った構造になったでしょう。



駒犬に「め組」の文字が刻まれています。



右に御祭神



左には見事な形の木が一本




手水舎は左手にあり、参拝してから手を清めます。





何種類かの絵馬がかけられていて、



「願い事は御神馬に」とある、神馬が描かれた絵馬や



いくつもの絵柄が見えます。




◆め組

『め組の喧嘩』に出る、梯子を持つ四ツ車大八と鳶を手にした小天狗平助が見得を切っている絵馬もありますが、こんなに多くの図柄がある神社は初めてです。



江戸の町火消は、「いろは四十七組」に分かれていて、その人足は鳶(の者)と言いました。ちなみに河竹黙阿弥の「加賀鳶」は大名火消でした。




 大門駅 壁の絵

境内には「神明恵和合取組」の碑(平成22年に建立)



祭礼に展示されるめ組の半鐘



面白いいわれが書かれています。




芝居にゆかりのものの他にも見るべきものがあります。

◆力石






◆歌碑



高浜虚子の二女・星野立子は知っていますが、その子と孫も俳人とは知りませんでした。自筆を刻んだのでしょうか、達筆です。でも読めません(いつも説明板か印刷物があるといいのに、と思います)。

   
◆貯金塚






◆だらだら祭

芝大神宮は「だらだら祭」でも有名です。9月11日から21日まで長いのでそう呼ばれ、祭礼期間中に生姜市がたち並んだことから、「生姜まつり」とも言われるそうです。





上の説明板、今は見当たりません。

生姜は本殿に供えられていますし、





社務所で販売されています。



生姜塚もあり、供養されているのがわかります。芝大神宮とめ組・生姜、切っても切り離せません。




神輿は必ず展示されます。





「祭禮提灯」とありますが、この神社独特のものでしょうか。





祭り気分が盛り上がります。




大神楽渡御は、曜日の関係で年によって異なるのでしょうか、でも準備は最初から整っています。来年は見てみたいものです。






ちなみに近くに芝の増上寺がありますが、境内に「め組の供養碑」が建っています。




また虎の門のニッショウホールのロビーには纏が展示されています。





 
(3)

初演は明治23(1905)年、後に新富座と名を替える桐座。

文化2(1805年)年、当時の芝神明境内で、力士とめ組の鳶の者との間で些細なことから大喧嘩となった事件が劇化されました。

神明恵(かみのめぐみ)の「めぐみ」が「め組」にかけてありますが、歌舞伎の外題はなかなか味があります。

 
神明芝居裏木戸前の場(『歌舞伎定式舞台集』より)


昭和46(1971)年1月、国立劇場では4幕13場の通し狂言として上演されました(第38回歌舞伎公演)。

浜松町辰五郎に2代目尾上松緑、辰五郎女房お仲に7代目尾上梅幸、四ツ車大八に8代目坂東三津五郎といった配役でした。


国立劇場公演ポスター
(『歌舞伎ポスター集-国立劇場開場25周年記念』(日本芸術文化振興会, 1991年刊)より)


歌舞伎座 絵看板(部分)鳥居清光画


平成24(2012)年、18代目中村勘三郎は平成中村座の舞台にかけ、シネマ歌舞伎として収録されました(公開は2017年)。



シネマ歌舞伎チラシ(裏面は部分)


海老蔵のめ組浜松町辰五郎
大阪松竹座 2018年10月(『演劇界』2018年12月号より)

『神明恵和合取組』、序幕「八ツ山下夜明前の場」については「八ツ山橋」をご覧ください。


なお、並木五瓶作の『富岡恋山開』の序幕は、「芝神明境内の場」です(『名作歌舞伎全集』第8巻、246頁)。


   
お読みいただきありがとうございました。

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(2018(平成30)年9月14日)
 
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