歌舞伎の舞台名所を歩く

  八ツ山橋
『神明恵和合取組』


 (1)

竹柴其水作『神明恵和合取組』(かみのめぐみ わごうのとりくみ)、通称「め組の喧嘩」の序幕は「八ツ山下夜明の場」です。

合方、時の鐘にて、上手よりおくら、看板をつけて先に立ち、後より四ツ車、着流し一本差しにて、羽織を肩へかけて出て来たり、

四車 モウかれこれ夜明前、わしはこなたのところで駕を言うて貰うから、もう送らずとようごんす。

くら イエ、どうせ駕屋へ声をかけますから、御一緒に参ります。何にしろ大そうお早いじゃアござりませんか。

四車 イヤ、あすの朝は場所の事で、神明前に寄り合いがあれば、早く帰っておかねばならぬ。

くら 御場所が初まりましたら、しげしげお出でを願います。

四車 屋敷が赤坂と赤羽だから、旦那衆と度々来ますよ。

くら 是非お待ち申しております。

 ト提灯を下へ見せ、

アモシ、関取、道が悪うござりますよ。

四車 どっこい、もう少しでぬかるみだった。

 ト脇へ寄る、この時、石のかげより以前の辰五郎、頬冠りにて窺い出て、看板を蹴飛ばし四ツ車へ突きかゝる。四ツ車びっくりして飛び退き、双方キッと見得。忍び三重になり、ちょっと立ち廻り、(中略)

これにて駕の中より炊出しの喜三郎、四十二三の人入れの拵(こしら)えにて出て、両人の中へ入る。

鳴物替わって、世話だんまりのもようよろしくあって、トド辰五郎、一本ぐさりの莨(たばこ)入れを落とし、花道へ逃げ行く。(以下略)

 (『名作歌舞伎全集』第17巻、177-78頁)


幕切れの四ツ車・おくら・辰五郎の世話だんまりは見せ場です。 この場は、このだんまりで知られると云ってもよいと思います。


(2)

マップに「八ツ山下」はありませんが、「八ツ山」の文字は見えます。




 「まるほどマップ 東海道品川宿」(しながわ観光協会発行)より


JR品川駅で降りて、京急北品川駅の方向へ歩きます。



すると、「旧東海道」の標識があり、渡ると、「やつやまはし」とあります。






反対側に行くと、こちら側には大正三年に出来た「屋つやまはし」とある「新八ツ山橋」が架かっています。

石の欄干の手前に、「しながわ百景 八ツ山橋 新八ツ山橋から品川教会方面を望む」地図と絵入りの案内板が見えます。品川教会はこの橋を渡った左にありますが、その近くの御殿山は江戸時代から桜の名所でした。








『神明恵和合取組』の舞台となった「八ツ山下」はこの辺りに違いなく、この場の世話だんまりを思い浮かべます。


次の二幕目は「神明社内芝居前の場」、こちらについては「芝大神宮」をご覧ください。

   
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(2018(平成30)年11月2日)
 
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