歌舞伎の舞台名所を歩く

  柳島妙見堂
『於染久松色読販』


 (1)

鶴屋南北作『於染久松色読販』(おそめひさまつ うきなのよみうり)、通称「お染の七役」、一人の役者が「お染久松」の世界の七人を早変わりで見せます。

その七役とは、油屋の娘・お染、丁稚・久松、お染の母・貞昌、久松のいいなずけ・お光、久松の姉の奥女中・竹川、鬼門の鬼兵衛の女房・土手のお六、芸者・小糸。

序幕「柳島妙見境内の場」、最初から早変わりを見せますが、最初は竹川として登場します。竹川は主家の宝刀を紛失したために切腹した父の汚名をそそぐために、丁稚となった弟の久松と一緒に短刀を探しています。竹川は久松の乳兄弟の久作と出会います。

本舞台、三間の間、正面松の大樹、埒(らし)を結い、上の方、妙見堂拝殿の横手を見せ、下手、額堂。これへ葭簀(よしず)張の出茶屋よろしく、床几二、三置き並べ、松の吊枝、すべて柳島妙見堂境内の体。

竹川 それにいやるは久作ではないか。

久作 ヤ、あなたは竹川様、ハテマア、ようお参りなされました。

                    (中略)

竹川 その在所者のお光とやら、とうに噂も聞いたれど、様子を聞けば久松が、勤めていやる油屋に、秘蔵娘のある様子、今もこゝで在所者、誰憚らぬ弟が噂、大評判と聞くほどに、この姉が持病のさわり。

久作 御尤もでござりまする。正真(しょうじん)の井の端の茶碗とやら、あぶなものと存ずれど、根がお刀を尋ねる詮議のため、誠には内も質店の手づるになろうかと存じつき、置きますうちに様々なアノ人の口、若い者というものは、様々な評判を受けまするものでござりまする。……しかし私もお尋ね申してお目にかゝり、御詮議なさるお刀の便りをお聞き申しましょう。

竹川 様子を聞いててがかりあらば、早速に知らするよう、そなたが逢うて言伝えを頼みまする。。

(『名作歌舞伎全集』第15巻、207-208頁)


また並木五瓶作『隅田春妓女容性』(すだのはる げいしゃかたぎ)、「御存梅の由兵衛」の序幕は「柳島妙見堂の場」と設定されています。

   
(2)

マップを見て、行ってみます。




地下鉄半蔵門線「押上」駅で下車、B1出口から出ます。



浅草通りを柳島橋の方へ向かって歩くと、10分ほどで着きます。

柳嶋妙見山法性寺は古くから「柳嶋の妙見さま」と慕われてきました。日蓮宗の寺院です。



小唄にも唄われて、歌舞伎の下座音楽としてもよく聞きます。

  どうぞ叶えて下さんせ 妙見さんへ願かけて
帰る道にもその人に 逢いたい見たい恋小唄しやと
こっちばかりで先や知らぬ ええ辛気らしいじゃないかいな


 
今は近代的なビルの中に入っています。上はマンションでしょうか。











奥に行くと墓地があります。










北斎が信仰したことでも有名とのこと。








同じ浮世絵師・歌川豊国の筆塚もあります。






また近松門左衛門の碑や



落語に縁の石碑、


(ちなみに三遊派の「三遊塚」が木母寺に建っています。)






他にも、いろいろな石碑が建ち並びます。






左手奥には弁財天の碑もありますが、石碑だけというのは初めて見ます。



(3)

『於染久松色読販』の初演は文化10(18136)年5月、江戸・守田座。

この芝居は人気作で、たびたび上演されてきましたが、一つ挙げるなら、ぼくはやはり初めて観た、昭和52(1977)年7月、歌舞伎座の舞台が忘れられません。坂東玉三郎が七役、鬼門の喜兵衛は片岡孝夫(現・片岡仁左衛門)が演じました。


   
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(2018(平成30)年11月3日)
 
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