歌舞伎の舞台名所を歩く |
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『元禄忠臣蔵』 | |
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赤穂浪士大石内蔵助以下46士は討ち入りの後、仙石伯耆守邸において取り調べを受けます(この時の様子を真山青果が『元禄忠臣蔵』「仙石屋敷」で描いています)。その後、四組に分けられて、次の藩の屋敷に預けられたのでした。 大石内蔵助ら17名は肥後熊本藩細川家の下屋敷 大石主税ら10名は伊予松前藩松平家の中屋敷 赤穂浪士9名は三河岡崎藩水野家 赤穂浪士10名は長門長府藩毛利家の上屋敷 真山青果の『元禄忠臣蔵』「大石最後の一日」は細川邸が舞台です。 義士の一人磯貝十郎左衛門の婚約者おみのは男装して、十郎左衛門に会いに来ます。 |
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おみの わたくし今日、お出入りのかなわぬお屋敷へ推参いたしましたのは、怨みでもない、恋でもない、また世間評判につられて……急にその人尊しと見る、浮気心でもござりませぬ。今のわたしくにはただ一つ、女としても、人としても、知って置きたい ―― 一事(じ)があるのでござります。(バタバタと両手をつき、声を搾り)十郎左さまの、御本心が知りとうござります。(泣く)。 内蔵助 (思わず声音を変じ)おみの殿、何といわるる。 おみの お頭さま。わたくしは計略のためばかりに使われて、本心十郎左さまに嫌われているのでござりましょうか、それとも、大望のために心ならずも、わたくしをお厭いなされたのか、それが知りたい、その御本心が……知りとうござりまする。 (『元禄忠臣蔵』下(岩波文庫, 1982)335-36頁) |
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しかし内蔵助は許しません。おみのは訴えます。 |
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おみの それでは武士(もののふ)の名のみが大事、十郎左さまの最後の御覚悟のみが大事にて、女の身体(からだ)は一代の恥をうけました上に、厭われたものかまたは……心の底にでも最惜(いと)しがられたかも知らずに、一生苦しい疑いのなかに、この世を送らねばなりませぬか。御家老さま、わたしくとても侍の娘、決して見苦しき未練な姿は致しませぬ。どうか十郎左さまに、一目お会わせ願わしゅうござります。(同上、337頁) |
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こう言われて内蔵助は磯貝を呼ばないわけにはいきません。しかし磯貝は、「さような御仁は、一向に存じませぬ」「皆も御待ち申しております。さようの事にお拘(かかわ)りなく、御覚悟の時でござります。御免」と言ってその場を離れようとします。 すると内蔵助は、「十郎左、そちの懐中に」「琴の爪が一つ、大事そうに納められているはずだ」、それを見せるように言います。ギクッとする磯貝。 |
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おみの 十郎左さまの御肌身に、あの琴爪が……今の今まで、お持ち下されたという……それだけで、おみのはお嬉しゅうござります。その上の御尋ねは、もはやご無用に存じます。 磯貝 おみの殿――。 おみの 十郎左さま――。 |
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(中略) |
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内蔵助、この時順次に来かかりし磯貝十郎左衛門の手を抑えて、列をはなれしめておみのの死を見せしむる。 磯貝 おお、おみのどの――。 おみの お心静かに、御切腹を願います。 磯貝 ほどのう後より……参りまするぞ。 (同上、344, 363頁) |
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そして幕切れです。 内蔵助は一同を見届けて、 |
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どうやら皆、見苦しき態(さま)なく死んでくれるようにござります。ははははは。(低く心快く笑って)これで初一念が届きました。ははははは。どれ、これからが私の番、御免下さりましょう。 内蔵助、威儀正しく仮屋の方へ進む。 ―(幕)― |
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(2) |
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大石内蔵助ら17名が預けられた細川邸の跡地へ行ってみます。「旧細川家シイ」と「大石良雄外十六人忠烈の跡」がその場所です。 東京メトロ三田線「白金高輪」駅からが近いのですが、泉岳寺にお参りしてから行くことにします。 泉岳寺を出て左、伊皿子坂を上って左に曲がり、 |
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真っすぐの通りを進むと、都営住宅の入口に「大石良雄等自刀ノ跡」と刻まれた石碑があります。 都営住宅の敷地を通って行くと、 突き当りに建物と説明板が見えます。 ◆大石良雄外十六人忠烈の跡 中を覗いてみます。 ここを振り返って見て、 都営住宅の敷地を出て、左に曲がります。 少し行くと、大きな木が見えてきます。 ◆旧細川家シイの木 東京都の天然記念物に指定されているとの説明板が横にあり、赤穂浪士のことについても触れられています。当時はこの辺りも細川邸の一部で、いかに広大な土地を占めていたかが分かります。 |
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「大石最後の一日」の初演は昭和9(1934)年の歌舞伎座。 歌舞伎座では一幕としても時々舞台にかかってきましたが、最近では平成29(2017)年11月顔見世の夜の部。配役は、大石内蔵助=9代目松本幸四郎(現2代目松本白鷗)、磯貝十郎左衛門=7代目市川染五郎(現10代目松本幸四郎)、おみの=中村児太郎でした。 この場の内蔵助は中村吉右衛門も演じています。 |
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(2018(平成30)年12月14日) |
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